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2007年3月22日 (木)

夜明け前より瑠璃色な SS 左門 de アルバイト

~エステル編~

「い、いらっしゃいませ」
まだまだ口調も表情も固いエステルさん。
無理もない、こんな仕事初めてなのだろう。

今日はエステルさんが左門で体験アルバイトをしていた。
事の発端は相変わらず仁さん。
「エステルさん、うちでウェイトレスの仕事をしてみない?」
基本的に日曜礼拝の日以外は特に仕事がないエステルさん。
一度、この店で料理をご馳走したことがあったおかげで断れなかったようだ。
「料理ならともかく、給仕のような仕事はしたことがありませんが」
司祭を目指して勉強してきたのだ、明らかにジャンルが違う。
「大丈夫大丈夫。エステルさんなら立派なツンデレウェイトレスになれるから」
「つ、つんでれ?」
仁さん、本人が分かってないからってそりゃストレートすぎる……。

それが今に至るわけで。

「ご注文を繰り返します」
真面目な性格のエステルさんだけに、仕事に対する姿勢は真摯。
オーダーミスもほとんどない。
受け答え等はだいぶ慣れてきたようだ。
「エステルさん、ちょっといいですか?」
「はい?」
しかし重要なものが欠けている。エステルさんには笑顔がない。
そりゃ、相手はすべて地球人なのだから多少は苦手意識があるかもしれない。
しかし接客業をやる以上、そこは避けては通れない道なのである。
「エステルさん、もう少しにこやかに接客をしてもらえると」
「……善処します」
やぶへびだったか、余計に表情が硬くなった気がする。


「いらっしゃいませ」
細身の男性と、目に悪いきらびやかなアクセサリを付けた女性。
年配の夫婦が入店してきた。ちょうど入り口付近にいた俺が接客にあたる。
と、老女の腕にはチワワが抱かれていた。
「お客様、申し訳ありませんがペットを連れての入店はお断りしております」
どこの料理店でも衛生上、ペットの持ち込みは認めていない。
「うちのエステルちゃんはペットじゃありません!大事な家族ですのよ!」
うわ。この犬、よりによってエステルさんと同じ名前かよ。
ペットへの愛は理解できるさ、うちも大小合わせて3匹の面倒を見てるからな。
ただ、それが度を過ぎるのもどうかと思う。

態度や話し振りを見るに、他の店でも同様にしてきて無理やりペットを同席
させてきたのだろう。女性はなかなか引いてくれない。
まいったな、ここで言い争っても他のお客さんにも迷惑がかかるだけだ。

しばらくの問答の末、男性が先に折れ退店する運びとなった。
女性はカンカンなのだが、1人の客の満足のために他の客をないがしろにできない。
特に料理を扱っている店では、絶対に譲れない部分がある。


と、店を出るとき
「まったく、これだから地球人の料理店など」
そして、ばたんとドアが閉まる。
しっかりと聞いてしまった。今の二人、月人だったのか?
「朝霧さん、少し外します」
俺の脇をすり抜けて店の外に出るエステルさん。
今の言葉、彼女にも聞こえていたのだろう。
出て行った二人に追いつくと、何事か話し始めたようだ。
「達哉君、事情が事情だから仕方ないけど、フロアの方も頼むよ」
仁さんが耳打ちをする。
「あ、はい。分かりました」
エステルさんが気になったが、店のほうも大事だ。
彼女が抜けている時間の分もフォローしないといけない。
後ろ髪を引かれつつ俺は仕事に戻った。

数分でエステルさんは店に戻ってくる。
そして何事もなかったかのように仕事に復帰した。


「ありがとうございました」
最後のお客さんを送り出して、看板を『Closed』にひっくり返す。
本日の営業もこれにて終了。

さて、俺はさっきのことが気になっていた。
エステルさんに聞いても話してくれるか分からないが、ダメ元で
聞いてみる。
「エステルさん、さっきの人たちのことなんですけど」
「はい、何か?」
「あのあと、どうなさったんですか?すぐに追いかけていきましたけど」
「いえ、あの方々が仰っているのは自身のわがままであって、地球人と月人が
どうこうという問題ではないことを確認していただきました」
やはりあの二人が最後に言い残したことが気になったのだろう。
しかしエステルさんがその言葉を正しに行ったことが俺は嬉しかった。
まぁそれをストレートに伝えられるほど、俺も大人じゃなくて
「さすが、礼拝堂の司祭様ですね」
つい茶化してしまう。
「もう、からかわないでください。あれは月人と地球人の認識の相違が」
顔を赤くしつつ頬に手を当てながら話すエステルさん。
必死に弁解するその姿は、可愛いと形容してもいいだろう。
「まぁそういうことにしておきますよ」
「絶対に分かってませんね?」
エステルさんにジト目で見られてしまった。
俺は笑顔で適当に誤魔化すと、閉店後の作業に戻った。

数週間前では考えられなかった、エステルさんの姿に俺は頬を緩めるのだった。





~あとがき~
当初の予定より、ずっと重たい話になってしまいました。
持ち込みペットの名前がエステル、って所までは明るく進んでたんですけどね。
そこから先で急に方向転換してしまいましたよ。
次回は真打ち、というか本当に書きたかったシナリオで締めます。

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