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2007年1月 5日 (金)

夜明け前より瑠璃色な 年末年始SS 後編

ということで続き~。作中の1月9日以降が未掲載部分です。

1月8日。冬休み最終日である。
その夜は左門を早めに閉店して、新年会兼壮行会ということになった。
わざわざ「壮行」としているのは『また帰ってきてもらいたい』という観点からである。

開始からすでに二時間。社会人連中は酒で酔いつぶれている。
特別参加のカレンさんも人目をはばからず、机に突っ伏していた。
おやっさんがつぶれたのを見計らって、菜月がワインを用意する。
これまた、なぜかこの場にいた遠山と菜月が赤ワインみんなに振舞っていた。
「じゃ、たまには私たちも飲みましょー。かんぱーい」
菜月が乾杯の音頭を取る。菜月は知っているのだろうか。
このワインはおやっさんがかなり大切にしていたワインだということを。

たまにおやっさんや仁さんに付き合うので、俺は比較的飲みなれている方だと思っている。
他のみんなも顔を赤くしているにせよ、とくに変わるやつは……
「朝霧く~ん。菜月がいぢめる~」
いた。
マジ泣き寸前の表情で俺に抱きついてきた。
「お、おい。遠山!?」
感動の再開を果たす恋人よろしく、正面から抱きつき俺の首に手を回してくる。
いきなり女の娘に抱きつかれたらさすがの俺でもうろたえる。
が、それも一瞬のこと。遠山の襟首を掴む手が現れた。
「こら、翠。まだ話は終わってない!」
そこに現れたのは菜月。顔を真っ赤にして……目が思いっきり据わっている。
このとき俺は気付いた。変なのは遠山ではないらしい。
菜月は遠山のパーカーの襟を掴むとずるずると引きずっていく。
「朝霧君、助けて~」
情けない声を上げながら抵抗する遠山は、俺の首に回した手に更に力をこめる。
「く、首が…」
合わせて俺も引きずられる格好になる。俺は俺で遠山に抵抗する。
3人で押し合いへし合いしていたのだが
「ひゃぁ!!」
と、途端に遠山の腕の締め付けが緩くなった。
その隙に俺は身体をひねると、遠山の腕から逃れた。遠山の手は虚しく空を切る。
「朝霧君のえっち~!」
菜月に引きずられる遠山はそんなことを叫びながら連れ去られた。
俺、何かしたか?そういえば、遠山の腕から抜け出す直前、妙に柔らかいものを掴んだ感触が…。
あ……。


菜月は隅の席に遠山を座らせると、なにやら説教臭く語り始めた。
右の握りこぶしがとても漢らしい。
遠山がこっちを見て、助けてオーラを出している。
が、顔をこちらに向けていることに気付いた菜月が、遠山の顔を両手で挟んで正面を向かせた。
そのやり取りが2度繰り返された後、遠山がこっちを振り向くことはもう無かった。
それと、視界の端にミアと麻衣がワインの貯蔵庫に入っていくのが見えた。
や、それはマズくないか?

「楽しそうね、達哉」
やや低い声に振り返ると、ぶすっとした顔のフィーナがワイングラス片手に睨んでいた。
表情以外はとてもサマになっていた……なんだかやばめな雰囲気を纏っている。
「や。これは。その……」
俺は必至に弁解するが、フィーナの表情は晴れない。
気まずすぎる。
が、先に折れたのはフィーナだった。
「冗談よ」
あまり冗談に見えない表情だっただけに、俺はなんとも言えない。

「少し外に出ない?」
フィーナからの提案。
「寒いぞ」
「酔い覚ましには丁度いいと思うわ」
「そうだな」
俺とフィーナは連れ立って外へ出た。
真冬の風が吹き付ける。やっぱ寒い。あっという間に体温を持っていかれた。
一方、フィーナはそんなことないのか、特に変わった様子も無く俺の前を歩いている。
他愛も無い話をしているうちに、いつの間にか弓張川の河川敷まできていた。

川を見下ろす形で俺たち2人は並んでいる。
「達哉は卒業したらどうするの?」
唐突な質問だった。
「一応、大学に進学するつもりだけど…」
カテリナ学園はエスカレーター式で満弦ヶ崎大学への進学が可能である。
もちろん就職組もいるわけだが、俺は進路希望を進学で提出していた。
適正試験もあるが、今の成績ならまず大丈夫だろう。
「そう」
フィーナは空を見上げた。少し欠けた月が煌煌としている。

「私、人を見る目はあるものと思っているわ」
また唐突な話だった。フィーナが何を言いたいのか俺には良く分からない。
「断言するわ。達哉、あなたは素晴らしい人間よ」
「あ、あぁ」
話の筋が見えず、俺は曖昧に頷くしかなかった。
そんな俺をよそにフィーナは話を進める。
「私の推薦で、月に留学してみない?」
フィーナの目は本気だった。まっすぐ俺を見つめている。
「……」
俺は答えに困る。何らかの形で月との外交に関わるような仕事に就きたいとは思っている。
俺にとっては願っても無いチャンスであるに違いないだろう。
が、どこかにそれを拒む自分がいるのにも気付く。
俺は押し黙ってしまう。フィーナは特に催促することもなく、俺の返事を待っている。
俺の答えは……。
「悪いけど、それには応えられない」
俺の返答を聞いてフィーナは一瞬驚いたあと、残念そうな顔をした。
良い返事を期待していたのだろう、表情には出ないが落胆しているのが覗える。
「そう、それなら仕方ないわね」
自分の言ったことを後悔しているのか、フィーナは顔を背けた。
「いや、留学したくないって意味じゃないんだ」
「どういうこと?」
フィーナは振り返ると、不思議そうな顔をした。
弁解、と言うわけではない。これは俺の考え。
「まぁ、何ていうかな。俺は俺の力で留学したいってゆーか」
言いたいことが巧く言葉にならない。
「その、フィーナが用意してくれる席にすっぽりはまるのが嫌っていうか」
言葉を選んでいるつもりだが良い言葉が見つからず、どことなくとぼけた答えになってしまう。
「自分の力で留学しないと、あとあと困ったりするじゃん」
「……」
フィーナは黙って俺の考えを聞いている。
「でも俺は月に留学したいと思ってる。だから自分の力で留学しに行くよ」
フィーナは一度目を閉じて俺を見つめなおした。
「そうね、達哉はそういう人だったわね」
口元が僅かに緩む。
そんなフィーナを見て、俺も微笑むのだった。
ひときわ強い風が吹いた。痛いほどに冷たい風が吹き付ける。
「そろそろ戻ろうか」
「えぇ、酔いも覚めたわ。帰りましょう」
俺たちは来た道を引き返した。

俺たちは店内に戻る。
とても静かだった。聞こえるのは数人の寝息と、男衆のイビキくらいか。
その中で唯一、動くものがあった。忘れていたが、最年少と思われる女の娘。
リースは一度だけ俺たちに視線を向けたが、すぐに手元のグラスに戻した。
リースの側にはカラになったワインボトルが10本以上転がっていた…。



1月9日。3学期の初日は学園もさすがに午前中で終わる。
フィーナは夕方の便で月に帰ると言っていた。
フィーナとミアは大使館から空港に向かうようですでに家を後にしていた。
遅くなることもないだろうが、先にイタリアンズの散歩に行ってしまおう。
手持ち無沙汰でどこか落ち着かない気持ちを紛らわすべく、俺は犬のリードを持って庭に出た。

しばらく時間を潰した後、
「そろそろ出る?」
キッチンから顔を出した麻衣がエプロンをはずしながら聞いてくる。
麻衣もフィーナたちを見送るために部活を早退してきていた。
俺は時計を確かめて頷いた。
「あぁ、そうだな」
「菜月ちゃんも呼んだ方が良いのかな?」
「んー、任せる」
俺はいったん部屋に戻ると外出する準備を整えた。

自宅を出るとき麻衣が菜月に声をかけたそうだが、左門は今日も忙しいらしく手が放せないとの事だった。
残念そうな菜月が気になったがこればかりは仕方ない。
俺と麻衣は姉さんと合流するため、博物館に向かった。


宇宙船の搭乗ゲートではフィーナ、ミア、カレンさんがいてすでに出国の手続きを終えていた。
本来であれば入場すら許されない地球人だが姉さんの人望とフィーナの希望で俺達は
ゲートまでの入場を許可されている。
姉さんはカレンさんと、麻衣はミアと話を始める。
必然的に俺とフィーナ、という組合せになった。

「次に会う時は俺が月に留学する時かな」
先に声をかけたのは俺のほうだ。
姉さんの話によれば、早ければ1年の夏にも最初の交換留学に参加できるらしい。
もっとも、大学1年で留学に合格した生徒はまだいないとのことだったが。
「そうね。でも留学生の選定には私も立ち会うはずよ」
「そっか、その時はお手柔らかに頼むよ」
軽い気持ちで言ったセリフをフィーナは逆手に取った。
「あら、自分の力で勝ち取るんでしょう?」
少しだけ意地の悪そうな笑みを浮かべるフィーナ。
「そりゃそうだ」
俺は俺で肩をすくめて見せた。
フィーナも先ほどの硬い表情が消え、穏やかに笑っていた。
その後は留学するための勉強のアドバイスや、世間話をした。

どれほど話していただろうか。
「姫様、そろそろお時間です」
側にいたカレンさんがフィーナに伝える。
「えぇ、分かったわ」
カレンさんの言葉に頷くフィーナ。
フィーナは振り返ると
「達哉。あなたが月に来るのを待っているわ」
すっと差し出される右手。俺はその手を握り返す。
「あぁ、最年少記録とかも引っさげて留学しに行くよ」
ちょっとだけ見栄を張ってフィーナに答えた。


ゲートをくぐった3人はは船内に入る前にもう一度こっちを振り返った。
ミアは深々とお辞儀、フィーナとカレンさんも軽く頭を下げた。
その姿を俺たちは手を振って送り出した。

2度目の別れの時。ただ、前回ほど悲しくはなかった。
それは『必ずまた会える』という確信があるから。

いや、そのチャンスを作るのは俺自身か。

必ず『会いに行く』


~あとがき~
という訳で、達哉君がんばってね~ってお話でした。
元々HTMLのページを用意して掲載するつもりだったので、今までのSSとは
行の区切り方が違うので見難い部分もあるかもだけど勘弁。

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