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2007年1月 5日 (金)

夜明け前より瑠璃色な 年末年始SS 前編

年末に帰ってきたお姫様のお話です。

「こんばんは」
「こんばんは~」
「いらっしゃい、フィーナさん、ミアちゃん」
俺より先に玄関に向かった麻衣が一足早く二人を出迎えた。
「リースちゃんもいるわよ~」
「お、降ろせ」
大使館の車から出てきた姉さんはリースを胸に抱きかかえていた。
リースは困った顔でじたばたしている。姉さんも懲りないなぁ。


年の瀬も迫った12月30日。フィーナとミア、それにリースが再び朝霧家に戻ってきた。
正確には数日前に地球に来ていたそうだが、公務が忙しく大使館で生活していたらしい。
夏休みの終わりと同時にフィーナとミアが月に帰ってから、約4ヶ月ぶりの再会となる。
今回は月側から地球へ友好関係の誠意を見せるべく、姫をこの時期に地球に向かわせたとのこと。
ちなみに、今回も姉さんはギリギリまでそのことを知らせなかった。
フィーナが地球に来ると聞いたのが1週間前。
左門を貸し切って行われたクリスマスパーティの席で、初めて聞いたのだった。
「久しぶりね、達哉」
「あぁ、久しぶり」
感動の再会というわけでもなく、ちょっと出先で行き会ったって感じの挨拶を交わす俺たち。
「ミアちゃ~ん」「麻衣さ~ん」と抱き合って喜んでいる麻衣とミアとはえらい違いだ。
俺たちの間柄はそこまでしなくても分かり合える程度だと思っている…というのは自信過剰だろうか。
「今回はどのくらいいられるんだ?」
姉さんからはフィーナたちがまた地球に来る、とだけしか聞いていなかった。
「1月9日までの予定よ。年始は何かと行事があるから家にいられないけど、5日辺りからはゆっくり出来ると思うわ」
フィーナがさりげなくここを『家』と言ってくれたことに少し感動する。
学園は9日からだし、フィーナたちとゆっくり過ごせるのは冬休みの後半か。
「ここじゃ何だし、中でゆっくり話そうか」
「えぇ、そうさせてもらうわ」
先にフィーナをリビングに通すと、不意に俺のズボンが引っ張られた。
見ると、リースが俺のズボンの端を掴んでいた。
俺を見上げ
「またお世話になる」
それだけ言うとリースはさっさとリビングに向かおうとする。
「あぁ。お世話してやる」
その背中にそう答えてやった。
リースはいったん止まって振り返り
「よろしく」
今度こそリビングに入っていった。
「リースちゃんったら、かわい~んだから。達哉君も、寒いんだから早く中に入りましょ」
追いかけるように姉さんもリビングへ向かった。
最後に俺もリビングへ。
4ヶ月ぶりに、家族が6人になった瞬間だった。

リビングに移動して麻衣とミアがお茶の用意を始める。
最初はミアの申し出を渋った麻衣だが、結局二人一緒にお茶の準備をしていた。
俺はソファに腰掛けると、早速フィーナに話し掛ける。
「月のお姫様が月の正月にいなくて大丈夫なのか?」
月の方でも何かと行事はあるだろうに、その姫様が単身で地球に来ていいものか疑問だった。
「えぇ、お父様がいればだいたい平気だし、友好関係を示すには私が地球に行くことも必要だったのよ」
というのは建前で『本当は私が地球に来たかっただけなの』とぺろっと舌を出して笑うフィーナ。
その姿は月のお姫様というより、そこらへんにいる年頃の女の子と変わらない。
「だから、またよろしくね、達哉」
「おう」
俺たちは二人で笑いあった。



さて、月では新年を迎える風習は地球と大差がないという。
しかし、神を祀るような施設(日本でいう神社など)がないため、『初詣』というものに興味があるらしい。
そんな訳で、俺たちは3つ駅を離れた所にある、少し大きめの神社に初詣に行くことにした。
フィーナの公務が4日までみっちり入っていたので、初詣に行くのは6日。
少しピークをずれているので、神社はあまり人がいなかった。
麻衣とミアは色々あって明日、二人で初詣に行くらしい。詳しいことは教えてくれなかった。
「女の子同士の秘密だから」
とまで言われてしまったので、それ以上は追求しなかった。

10時くらいに神社に着いたのだが、ざっと見て100人程度しかいない。
あまり混んでて、フィーナの正体がばれると面倒なことになりそうだから丁度良いかもしれない。
「想像していたより空いてるわね」
もっともな感想をフィーナが口にした。
「まぁ、ほとんどの人は元日に来るからな」
テレビなんかでやっている、初詣の中継は元日のものだ。
それに比べたら、この程度の人出はなんともない。
「元日の人出はすごいんですよ。去年来た時は身動きできなかったんですから」
リースの手を引きながら姉さんがそう話した。
「人ごみ、嫌いだからこれでいい」
ぼそっと話すリース。その手にはおしるこの缶が握られていた。

境内へ続く列の最後尾に並ぶ。
この程度の人数なら、さほど時間も掛からないだろう。
「行列に並ぶの、夏休み以来かしらね」
「ん、そうなのか?」
などと返事をしたものの、良く考えればそうなるのか。
一国の姫というVIPが列に並んで何かを待つはずがない。
「えぇ、夏休みにアイスクリームを食べた時以来かしら」
「そっか、そのとき以来か」
夏休み、フィーナを連れて街に出たときに商店街のアイスクリーム屋に寄ったことがあった。
それを皮切りに、思い出話に花が咲く。

ほどなくして、最前列まであと少しという所まで辿り着く。
「えっと、どうすれば良いのかしら」
俺たちとの会話に夢中だったフィーナは突然のことに戸惑っている。
これはこれで面白そうだが、後ろに迷惑が掛かるので素直に教えることにする。
「そこの賽銭箱にお金を入れて、鈴を鳴らして、あとは手を叩く」
詳しい礼儀は俺も良く知らないので、流れだけ簡単に説明した。
「最後のところ、『二礼二拍一礼』といって、2回礼をして、2度手を叩いて、願い事をして最後にもう一度礼をするものなんですよ」
姉さんがフォローしてくれた。
「分かりました、やってみるわ」
『俺が先にやるから』と耳打ちする。フィーナは真剣な表情で頷いた。
貧乏学生の俺は5円玉を取り出す。賽銭箱にお金を投げ入れた後、鈴をガラガラと鳴らした。
2度礼をして、2度手を叩き、もう一度礼をした。
姉さんが話したことを加えて忠実にやってみた。忠実すぎるような気がしなくもなかったが、まぁ大丈夫だろう。
そして場所をフィーナに譲る。フィーナはバッグから財布を取り出すと、銀色の大きめな硬貨を取り出した。
ま…まぁ、賽銭の額が問題じゃないしな。と思いつつも、やはりちょっとヘコむ俺だった。

姉さんとリースもお参りを済ませ、その帰り道。
「フィーナは何を願ったんだ?」
「えぇ、地球と月が友好でいられるようにって」
「そっか」
フィーナらしい願い事だと思った。まぁ予想の範囲内ではあるが。
もう一度留学したい、と言ってくれるか期待したが、それも叶わなかったらしい。
「それと、また…カテリナ学園に通いたいわ」
そう言うと顔を赤くして俯くフィーナ。
あ、叶ってたのか?
「あらあら」
姉さんが苦笑していた。
「手配しましょうか?」
姉さんが冗談っぽく言う。
「そうね、でも仕方ないわ」
フィーナはかぶりを振った。
「今から学園に留学しても中途半端ですもの。それに卒業直前ではあまり勉強にならないだろうし」
確かに、最上級生の3学期の授業内容など、たかが知れている。
むしろ休講のほうが多いくらいなのだ。
そんな環境の中ではフィーナも落ち着かないだろう。
「ちなみにリースは?」
せっかくなのでリースにも話を振ってみる。
「願い事はしたけど…たぶん無理」
リースはすでに諦めきった表情でそう話した。
「どんな願いだ?」
気になったので内容を聞いてみる。リースは一度だけ姉さんを見た。
「さやかから解放されたい」
「うん、それは無理なお願いね~」
すかさず姉さんはリースを抱き上げると、頬擦りをした。
もう諦めたのか、リースはされるがままになっていた。
そうだな、俺も無理だと思う。


~あとがき~
本当は12月30日にアップしたかったSS。
去年早々に公開はしたんだけど、続かなくて打ち切られたやつです。
ちょっとだけ日付をずらして再公開。続きはあとでアップします。

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